INICIAR SESIÓNジェムを贈ってくださった読者さま、ありがとうございます!嬉しいです(^^)
直哉が急に病院へ面会に来てから五日経った。 凜華はまだ退院することができず、病室にいる。「涼真と琥珀くんが退院を許可してくれない。二人とも私のことを考えてのことかしら」 リハビリが終わり、ぽふっとベッドへ倒れ込むようにして凜華は横になった。 ベッドのとなりには、ベビーベッドも置かれており、そこには日葵が寝ている。「こうやって一緒に居られるだけで幸せ。でもずっとこのままでいるわけにはいかない」 天井を見上げながら、凜華は一人呟く。 そこへ――。<トントントン> ノックが鳴り、病室へ入ってきたのは琥珀だった。「お疲れ様」 琥珀の姿を見て、凜華は慌てて上体を起こした。「ああ。凜華さん、良いんですよ。寝ていてください。病人なんですから」「そんなわけにはいかないわ」 琥珀の顔をジッと見つめると、琥珀の頬が赤くなった。「そんなに見つめないでください。恥ずかしいです」 目線を下げる琥珀は、直哉と対峙した時の彼とは違い、あどけなさがまだ残る。 後輩だった時の面影を感じられた。「私なんかでも、琥珀くんは照れてくれるのね」 クスクスと笑う凜華は、少し明るさを取り戻したようだ。「良かったです。笑ってもらえて」 朗らかな凜華の表情に琥珀も安堵する。「凜華さんにアドバイスしてもらいたい症例がありまして……。一応、個人情報なので、患者さんの名前はお伝えできないんですが。聞いてくれますか?」 ベッドサイドの椅子に座った琥珀は、深く息を吐いた。「私で役に立つのであれば」(実際に医師としての仕事はできない。だけど知識がある中で答えることは自由よね)「ありがとうございます。実は……」 琥珀は先日、救急搬送されたとされる女性の症状について話し出した。「ていうわけで、原因がわからないんです。検査にも引っ掛かりません。だけど不安なまま帰したくはなくて」「そうなのね。聞いた感じだけど、アレルギー症状だと思うけれど、結果が出ないってことは……。もしかしたら、その人がこんなことは原因にはならないって話していないことがあるんじゃないかしら。しっかり聞き取りしてあげて。運動で誘発されるアレルギー反応もあるわよね?」「わかりました。再度、運ばれた時の前後について聞き取りしてみます」 ありがとうございますと琥珀は頭を下げた。「ううん。私は今、手術ができる
「直哉さん、話ってなに?」 唯衣は自宅でマッサージを受けていた。 久しぶりに直哉から電話があり、心が躍っている。(あの女も家に帰っていないみたいだし。どこかできっと野垂れ死んでいるんだわ) 実行犯から連絡を受け、しばらく凜華が家に帰っていないことを知っていた唯衣は、凜華の身に何かが起こったのだと予想していた。(金もないあんな女、治療すら受けられないわ。きっとどこかで倒れて、身元不明として処理されているに違いない)(最後はとても具合が悪そうだったって目撃した奴から報告があった。もしかして、直哉さんもあの女がいなくなったことを知って、邪魔者がいなくなったから結婚しようってことかしら……) 直哉の返答には、かなりの間があったため、一人楽しく都合の良い妄想を唯衣はしている。ニヤニヤと傍から見ると、かなりの上機嫌だ。<……。単刀直入に言う。嘘はつくな>「えっ?」 直哉の言葉遣いがかなりキツイことに、唯衣は焦る。(怒っている時の直哉さんだわ)「なに? どうかしたの?」 平然を装う。<凜華へ嫌がらせをしていたのは、キミか?>「へっ?」(どういうこと?なぜ直哉さんが?あの女の住処へ行ったの?いいえ、そんな報告は受けていないわ。まさか、あの女が直哉さんに泣きついた?) 先ほどまで愉快に感じていた凜華への行いが、一瞬にして凍りつく事象へと変わる。 なぜ直哉が急にそんなことを訊ねてきたのか、唯衣には想定外だった。(あの女が泣きついて、直哉さんの居る自宅へ帰ったのなら、向こうの使用人から何らかの連絡が来るはず。それがないと言うことは……)「なんのことかさっぱりわからないわ」 正直に話すつもりはない彼女は、白を切ることにした。「だって、直哉さん。私は姉さんの居る場所すら知らないの。嫌がらせなんてできるわけがない。ううん、どうして私が姉さんへ嫌がらせなんてしなきゃいけないの。自分の姉なのに」<そういう情報が入ったんだ。凜華が住んでいる住居や職場に嫌がらせをしている人物がいると。実行犯を裏で操っているのは、キミなんじゃないかと……> 電話口の直哉は、淡々としているが、どこか嫌立ちを隠せない声音で、低い声がさらに厚みを帯びたように聞こえた。「そんなっ。酷い!私、そんなことしていない!直哉さん、私のこと、信じてくれないのね」 唯衣は大きな声で泣き
凜華は、直哉からの反撃に備えた。(私は直哉から何を言われても、もう傷つかない。指示に従ったりしないわ) あんなに恐ろしく、憎かった夫が目の前にいる。 言い返すことも躊躇ったことが多い。 今は、守るべき小さな命がすぐ近くにいる。(この子のお手本になるような母親にならなきゃ) 凜華はベッドの裾をギュッと掴んだ。「あなたは唯衣さんを信じる。それが結果でしょう?それで良いじゃないですか。俺は凜華さんのことを信じますけど」「いや、俺たちも……だ」 琥珀は直哉に明らかに呆れたというような態度を取っているし、涼真は琥珀だけではなく、自分も凜華の味方につくというアピール全開だ。(何がどうなっている。こいつらは当たり前のように凜華側についているし、唯衣が凜華へ嫌がらせだと……?もしもそんなことをしていたら、俺の耳に多少なりとも情報が入ってくるはずだ) 自分の方が圧倒的優位に立てると思い、涼真の病院へ乗り込んだ直哉だったが、事態はそうではなかった。 認めたくはないが、自分の方が劣勢であることを直哉は嫌でも感じている。「お前たちがどうしてそこまでこの女のことを気に入っているのか理解できない。ただ、たまには妻の話も聞いてやらねばならない」「はっ……?」 その場にいた全員が直哉の発言に絶句する。(私のことをまだ妻だと言っているわ。やっていることと、言っていることが完全におかしい)(こいつ、こんなにも頭の悪そうな発言をする奴だったのか? 一流の外科医と聞いていたが……。ライバルどころか、俺の相手にすらならない)(凜華さんの大切さに気がついたのか? それにしても都合が良すぎる) それぞれ心の中は複雑だった。「今日のところは帰るよ。また来る、凜華」 直哉はパッと踵を返すと、ドアに手をかけた。「ちょっと待って! 結局あなたは何をしに来たの!?もうここには来ないで」 凜華が叫ぶようにして伝えると「俺はお前の夫なんだ。面会に来るに決まっているだろう」 怖いくらいの無表情のまま、直哉はそう告げ、ドアをぴしゃりと閉め、面会室から去って行った。「なんなんだ。あいつは? あんなにとぼけた男だったのか?」 緊張が解けたからか、涼真は面会室の椅子に脱力したかのように座り込む。「いや、俺と以前会話をした時は、もっと圧力があったというか。威厳があったように思いま
「何を言っている……?」 直哉は何を言われているのか、全く理解できなかった。(新しい婚約者? 凜華を苦しめた? 見て見ぬふりをしていた?何のことだ?)「凜華さんがこんなに疲弊してしまったのは、あなたの大切な唯衣さんの仕業です。本当は知っているんでしょう?」 琥珀はハッとバカにするように笑う。「凜華は毎日のように唯衣から虐めをうけていた。実際には唯衣から金で雇われた奴らが実行犯だが。唯衣と関わりの深いお前なら、知っていただろう。それなのにお前は、こんな時だけ凜華のことを妻だといい、見て見ぬふりをしてきた」「なぜそこまで自分が夫だと言い切れるんですか? 自分の妻は虐めの玩具ではありません。夫として異常なことをしているんですよ、あなたは」 琥珀と涼真に攻め立てられる。異常者だと言われ、いつもの直哉であれば、プライドを傷つけられたショックからか、激高するだろう。 しかし今の直哉は思考が追いつかず、苛立ちさえ生まれなかった。冷たい目線の涼真と琥珀がジッと直哉を見つめる。「だから何を言っているんだ? 俺はそのようなことは……」 否定をする直哉だったが、このところ唯衣の紹介でVIP対応の患者が多く、凜華のところへ訪問できなかったことを振り返った。 それは時間にして一瞬のことだ。凜華の住みかがわかったため、凜華自身の調査には力を入れていなかった。(事件のこと、獄中のことについての調査は続けてはいたが。誰かに操作され、はっきりとした回答が得られていない。まさか、唯衣が……?)(いや、そんなことをする必要がないだろう。唯衣は恵まれている。凜華を陥れなくても、生活は潤っている。この二人のどちらかが関わっているに違いない) 直哉は唯衣を僅かに疑ったが、唯衣にとってのメリットを考えた時、彼女がそこまで凜華にこだわる理由が思い当たらない。「こんな惨めな女を追い詰めても、唯衣は何も楽しくはないだろう?どうして唯衣がそんなことをするんだ?」 直哉の言葉に三人は、薄っすらと口を開ける。(呆れた。本当にあなたは何も知らないのね。唯衣に騙されているのはあなたよ) 凜華は、まだ籍が入っている自分の夫に惨めな女と言われたことよりも、唯衣の擁護に走ったと思えるような発言をした直哉に心底呆れていた。「私のことを妻だと言うのに、あなたは妻よりも妹を守ろうとするのね。それがあ
録音されていたのは、以前、凜華の社員寮に乗り込んできた時の直哉の発言だった。(琥珀くんが録音していたなんて……) まぎれもなく直哉本人の声、そんなに遠い昔ではない。 直哉自身も自分の発言には覚えがあるのだろう。「くっ」 鈍い声を出し、何も言えずにいる。「俺と仁王は、凜華に顔の傷があっても、当時と違い痩せていても、凜華だと気づいた」 涼真が直哉を見つめながら、一歩前に出る。「しかし、お前はどうだ? 自分の妻に気づかないどころか、大勢の前で彼女が笑いものにされ注目されていたとしても、何もしなかった」「まだ離婚をしてもいないのに。別の女性と親しくしていたのは事実だろう。しかもその女性は、凜華の妹だぞ。お前も、何をしていたのかわかっているのか?」 涼真も直哉に対する態度を変えた。<お前>、名前を呼ぶことはせず、丁重に扱うこともせず、直哉の権力には屈することはないことを態度で表したのだ。「凜華さんの妹、唯衣さんと仲睦まじくしている姿は、誰もが目撃しています。腕を組んで歩いていたという証言も何人も……。二人で食事に出かけたり、買い物をしたり、回数を重ねれば、それは逃れられない不貞の証拠になると思います」 琥珀は涼真と同じく強気の姿勢を続ける。(この二人が味方になると、あの直哉でもこんなにも小さくなってしまうのね) こんな夫の姿を凜華は見たことがなかった。 屈強な直哉の姿しか知らない。 言葉巧みに相手へ攻撃する姿を何度も見てきた。相手が何を言っても、方向性を変え、責め続ける直哉のスタイルしか覚えてはいない。「凜華さんがあなたに資産を奪われ、一人環境が悪い中で働き続け、高熱を出して苦しんでいました。一度でも凜華さんのことを心配したことがありますか?あなたのせいで、無理をし続けている身体は悲鳴を上げ続けている」「それは……。凜華が家に帰ってくれば良いだけの話だろう。勝手にそんな生活を続けているのは、この女のエゴだ」 直哉はやっと答えた。ぎりっと噛みしめていた唇が赤くなっている。(私があんなことをされて、帰ってくると直哉は思っているの?) 凜華は、想像以上に浅はかだった直哉の考えを知り、ある意味で驚いている。 そして夫が自分へ執着している理由がわからなかった。(私はいつだって離婚に応じる。離婚届も直哉へ渡している。なのに、返されてしまっ
「それは凜華から聞いた話ですよね。かなり一方的だ。まさか自分の妻とすれ違っておいて、僕が気づかないはずがありま……」「気づかなかったんですよ。あなたは」 涼真が直哉の言葉を遮った。 自分の発言を途中で止められ、直哉のプライドが許さなかったのか「宗像さん。あなたがそのような礼儀のない方だとは思いませんでした」 涼真に目線を向け、誰が見ても怒っている、そんな表情を隠すことなく全面的に押し出している。「あなたたちは凜華の何でしょう? どうして凜華の肩を持つんですか?」 そして琥珀へとチラッと目線を移したかと思えば「俺にケンカを売るってことは、どうなるかわかっているんだろうな?」 先ほどまでとは違い、巣の直哉を出した。 言葉遣い、態度、話を聞く姿勢が、ありのままの桜庭直哉になり、一瞬その場がピリッと凍りついた。 だが――。「俺は凜華に昔から好意を寄せている。凜華を刑務所へ送ってしまったのは自分のせいだ。だからこれからは俺が贖罪の意味を含め、凜華への罪を償っていこうと思っている」 怯むことなく言い返したのは、宗像涼真だ。 涼真の発言に直哉は、口を少し開けてしまうほど驚嘆しているようだ。 冤罪に追い込んだとは伝えてはいない。 直哉が真相を理解したのかは不明だが――。「俺は研修医時代から凜華さんに憧れていました。凜華さんには返しきれないほどの恩があります。今は俺が支える番だと思っています。異性として凜華さんを想っていることは確かです」 涼真に続かんとばかりに、琥珀は強い胸の内を吐いた。「はっ……?」 二人からの告白は、直哉が予想していた以上の熱さだった。 ふざけているのではない、真剣である様子がひしひしと直哉へと伝わる。「二人とも……」 驚いているのは直哉だけではない。凜華もだった。 二人からの告白をどう捉えたら良いか、受け止められずにいる。(涼真は、直哉が相手でも同じことを言うのね。私を冤罪に送り込んだあなたは、一生許すことができないけれど。力を貸してくれたことは感謝しているわ)(琥珀くんにも感謝はしている。だけど、琥珀くんにはもっと相応しい相手がいるもの。前科がある私なんかと付き合わない方が良い) 凜華の胸中もまた複雑だ。「凜華は俺の妻だ。お前たちは何を言っているのかわかっているのか?」 やっと直哉は口を開くことができ







